豊かな自然と乏しいお金

アルバイト

 児童館を運営しているのは、県の外郭団体で、建物は県、敷地は市からの借り物。
 働いている職員の多くが、県の職員として出向してきた人や、同じく県に採用された教諭だった。
 中には、臨時職員として採用されているプロパー職員もいたが、その立場たるや、1年ごとの契約だという。
 それでも問題なく勤務していれば、臨時職員は1年更新で5年ほど働けるらしい。
 規定で5年以上連続勤務はできず、5年経過すると1年間を空けることになっている。
 臨時職員は、ほぼ全員が家庭を持った主婦という立場のようだった。

 僕の立場は、採用から9カ月間の期間職員。
 真面目に勤めていれば、契約更新もありそうな話も・・・・

 どれだけのことができるのか判らないが、今は求められている仕事を頑張るだけだ。
 初出勤の日は、先輩職員(といっても20歳~30歳ほど年下の職員たち)から、卓上に飾るような小さな手作りの花かごを贈ってもらった。
 子ども相手の仕事なので、日常的にそういったものを作っているのだそう。
 手間と時間を使ってもらえたのかと思うと、心が温まった。

 配属は総務課。
 主に、情報発信業務及び総務関連の仕事、ということだったが、勤務初日に上司から賜った仕事は、手に軍手をはめて、発泡スチロールで作った、高さ5メートルほどの大きさの恐竜の館内移動作業だ。
 館長以下、副館長も含め男性職員全員が軍手やハサミを手に手に、階下へ降りていく。
 その後ろに従い、初めての仕事に取り掛かることになったのだ。

 発泡スチロールを何段にも積み上げ、削られて形どられた恐竜は、バラバラのキューブ状の発砲スチロールになって、2階から地下のスペースへ。
 組み立てようと思っても、どこに発砲スチロールを置けばよいのかが判らない。
 立体パズル状態である。
 この部分はこっちだろう、なんて試行錯誤しながらも、なんとか組み立てが完了。
 一緒に作業をし、パズルを考えたことで、なんだかチームとしての一体感が出たような気がして、初対面だったメンバーと一気に仲良くなった気がした。

 この児童館は公的な施設で入館無料、豊かな自然の中に立つ、迷路のようなちょっと変わった建物。
 小学生以下、どちらかというと未就学児とお母さん、もしくはその祖父や祖母、そして土日にはお父さんも一緒に、やってくる。
 テーマパークにあるような、ジェットコースターや、CGを使った大型遊戯設備はない。
 子供向けの図書館、拾ってきたどんぐりや木の枝、葉っぱなどを素材として、職員のサポートを受けながら自分でおもちゃを作ったり、職員をリーダーとしての自然観察ツアー、けん玉や、だるま落としなどの懐かしいおもちゃがあったり、普通の3倍くらい大きいオセロゲームとかが置いている。 
 森の中にあるため、朝や夕には、鹿が見られるのは日常。
 季節ごとに色が変わる景色など、とっても素敵な場所ではある。
 もっと早く知っていたら、子どもが小さい頃に連れてきたのにな~なんて思える施設ではある。
 そんな施設なので、豊かな自然の中で敷地は広大、バブルの時代に建てられた建物もかなり大きく、維持管理には結構なお金がかかるのだろうな~と、元不動産屋は思った。

 ここは、テーマパークのような直接的な刺激はなく、人工的に作られた夢の国に比べると、かなりの想像力を使わなければ、子どもには受けないのだろう。
 平日に来場される親子の数は、数えられるくらいだ。
 県から交付される予算も年々減らされ、職員の数もどんどん少なくなり、一時期の半分ほどの人員となっているらしい。
 シャボン玉を使ったイベントを企画していた課からの、1万円もするかしないかのシャボン玉製造機の購入要求も、予算がないからと却下される始末だ。
 そんな中でも、なんとか存在意義を高めたいと、熱意を持ってやってきた新任の館長は、毎月のように大掛かりな模様替えを行い、お金がかからないイベントを企画し、来場者を増やそうと躍起になっていた。
 そういうことで、情報発信ができる職員が求められ、僕が雇われたということらしい。

 片道1時間15分のバイク通勤は、思っていたほど苦ではなかったが、時給は、ほぼ法定賃金の最低時給で、勤務は週に4日。 
 1ヵ月勤務をしてもらったお給料は16万円ほど。
 そこから、社会保険や税金などを差し引かれると、手取りは12万円あまり。
 う~ん、年金をもらいながらであれば辛抱できるのかもしれないが、パートをしている嫁の収入と合わせても、生活するのは難しい金額だ。
 だから非常勤職員は主婦が多いのか、と納得した。
 わかっていたこととは言え、現実の給与明細を見せられると、少し凹んだ。


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